2017年05月12日

『旅役者』を神保町シアターで観て、成瀬は一矢報いたふじき★★★(ネタバレ)

ラストを含めたおおよその荒筋が書いてあるので、
見てない人は控えてもらった方がいいと思います。


五つ星評価で【★★★これは積極的に好きラインの方】
「映画監督成瀬巳喜男初期傑作選」プログラムの一本。
「日本一の馬の足」を自称する、馬の足歴15年の役者が地方の興行主に被り物を壊されたことから喧嘩になり、本物の馬に代役を取られる。ジャンルで言えばコメディー。
この芸にストイックな馬の足役者の演芸論は正鵠を得ているし、そのメソッドにより演じられる馬は確かに凡百の馬の足より優れているに違いない。その実、観客はそれほど馬の演技に関心がある訳ではないので、馬を演じる人間の渾身の演技より、馬の愛嬌の方に軍配が上がってしまう。やり場のない怒りに突きあげられた役者は、ライバルの馬に演技対決を申し込む(馬にその気はないけど)。馬は走る。馬になりきった役者も走る。そこで、いきなりENDマーク。

「馬の足」に心血を注いでいる、ある意味役者根性がある面倒くさい男、この飲み屋の女を口説くのに「演技論(メソッド)」を語って威張り散らしたりもする器の小さい男がギャフンと言わされるのは、可哀想だけど、ちょっといい気味でもある。この男と後ろ足の男が運命にさいなまれながらずっとクサっている場面が映画のかなりの部分を占めているのは、バランス悪い。それならラストシーンの後ももうちょっと見たかった(見てもほがらかな展開になりそうにもないから割愛したのかも知れないが)。

素晴らしいのはラストの馬の足だ。

ドブロクで酔っぱらって本物の馬に因縁を付ける被り物を付けた馬の足が本当に素晴らしい。いや、実の馬と並べると、確かに着ぐるみみたいだし、人間が入っているのも百も承知で、動物や生物としての馬ではない。外見は違うし、壊された被りもののお面が劇中で言われる「狐」より「禍々しい悪神」のように見えてしまっている。にも関わらず、「馬であり続ける」「馬であり続けたい」という思いの強さが爆発して、その存在は馬でないにもかかわらず、限りなく馬なのだ。実態は違うし、動きも実の馬の動きから考えるとインチキだが、そこには「馬とはこうだ」という観念上の馬が確かに存在している。「演技対象である馬への愛」がただ分かる、それなのに投げやりでもあるラストシーンがムチャクチャ響いた。

ベスト馬の足映画


【銭】
神保町シアター当日一般料金1200円。

▼作品詳細などはこちらでいいかな
旅役者@ぴあ映画生活

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