2017年04月27日

『人間の値打ち』『エル・クラン』『幸せなひとりぼっち』『手紙は憶えている』『エヴリバディ・ウォンツ・サム!!』をギンレイホールで観て、手堅くバタバタレビューふじき★★★,★★★★,★★★★,★★,★★

◆『人間の値打ち』
五つ星評価で【★★★群像劇としては面白すぎないけどなかなか良い】
一つの事件に関わる人間を主体を少しずつ変えて描写するスタイリッシュな群像劇。
だが、最初の男が実に価値のないクズで、もう最初からゲンナリ。
クズに引きずられるように徐々に不幸にベクトルが変わっていく一群。
善人も、悪人も、老いも、若いも、
実像以上に尊敬されている者もいれば、実像以上に軽蔑されている者もいる。
彼等は映画の中では断罪もされなければ、持ち上げもされない。
ただ、均等にその一連の出来事のどこかに加担している。
「まあ、あいつが一番のクズだろう」と観客が心の中で思う奴はいても、
それは映画内では結果に現われず明らかにされない。
一見「値打ち」という言葉から金銭ゲームにより、誰が一番「持つ者」であるかが
争われているようにも見えるが、最後、金銭の有無とは無関係に「さもしい者」は
最初からさもしいし、心根が優しい者は最初から優しい。
特に事件によって根打ちの上下変動は起きないのである。
金銭に関しても、小さな移り変わりはあっても階層を変える程の大きな変遷はない。

集団は親の層と子供の層に分かれる。
子供の層は等しく可能性を秘めているが、持つ者と持たざる者に分かれ、これからの生き方を決める上でとても不公平だ。

親の層は結果として、それぞれの社会的階層を維持しながら生きているが、
モラルはあったり、なかったりで、モラルの有無と貧富が関連性を持たない事が分かる。

正しく生きても、不誠実に生きても階層は変わらず、同じ辺りをウロウロしている。
つまり、金銭の有無に「値打ち」がある訳ではないという事か。
これは至極当然な常識的な結論すぎる気がする。

映画はラストに人間の価値を死後の保険金額として算出する。
単にそういう目安もあるとの皮肉なんだろうけど、
それを最後に持ってくる事で映画としての引っ掛かりと言うか、エグ味が出来たのだが、
作品としては不安定さを増し、失敗したんじゃないかと思う。

PS 『人間の千畝』(笑)


◆『エル・クラン』
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▲このオヤジさんのとても優れているが突き詰めると怪物という感じがとても面白い。

五つ星評価で【★★★★父ちゃんの瞬きしない目が強烈】
営利誘拐を生業とする家族の実話。
「実話」が効いてる。
政府の元・情報管理官であり、その情報ネットワークを使いながら、
家族の生活費として資産家の営利誘拐を着々とこなす父ちゃんのキャラクターが強烈。
一見、大人しそうだが、目が狂信者のそれである。
自分の正義を信じて一切疑う余地がない。
野に放たれて一家の長となったヒットラーのようである。
だが、「揺るがない」存在は、見世物として外から見ている分にはとても面白い。
家業に影響を受けながら、徐々に父親が沁み込んでいくような息子たちに同情する。
そして娘は美人姉妹でそれだけでグー。
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▲ローラっぽい空気の姉妹。

長男の婚約者は軽いブス(と言うか好みでない)なのは残念。

自分の父ちゃんがこういう断固としたタイプの狂人でなくて、本当に良かった。
日本でこれやるとしたら、若い時の仲代達矢さんとかが適役だと思う。

PS 「クラン」は「族」という意味。
 と言うのは『伝説巨神イデオン』の「バッフ・クラン」から学んだのだ。


◆『幸せなひとりぼっち』
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▲猫映画でもあるんだよな。猫が適度に不細工なのは良い。

五つ星評価で【★★★★身につまされる】

不器用爺さんのオーヴェ。
あんなんどう考えても俺すぎる。
俺すぎるオーヴェに涙を流さざるをえない。
若かりしオーヴェが社会的にはとても変なのだけど、
パッと見イケメンであるのは何か天の恩恵くさくていい。


PS 『幸せなひとりブッチャー』という映画も見てみたい。
 ルールを守らない奴らには地獄突きじゃ!


◆『手紙は憶えている』
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▲「わたしボケていますが足腰は健康です」
  対「わたしボケていませんが足腰は不自由です」
五つ星評価で【★★そんな事をしちゃいけないだろう】

ラストのどんでん返しは分からんでもないけれど、
でも、道義的にこういう事をさせたり、させられたり、
それを見せられたりするのはイヤだな。

オウム真理教の麻原彰晃が記憶を完全に失い、子供のような精神状態にあったとして、それでも被害者は彼等の復讐心の為だけに麻原彰晃を殺すべきか、という問いかけをこの映画は含んでいる。私個人はそれはイヤだとする派なのだけど、麻原彰晃は見た目がキツくて、とても記憶を失ってるように見えなかったりするものだから、「麻原彰晃ならOK」と我ながら結論を出してしまうかもしれない。人間って弱いのだ。

PS AI搭載の手紙だったりして。


◆『エヴリバディ・ウォンツ・サム!!』
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▲あーもー可愛いカップルだ、にゃろめ!

五つ星評価で【★★そういう青春も否定はしないが、自分にとってあまりにもリアルに乏しいので同調はしづらい】
アメリカン男子大学入学直前の三日間。バカな仲間と笑いながら女の子とハグ。人生の中でのイケイケドンドン無敵時期。
自分も大学生だった時期はあるが、あまりにもそこから見える風景が違うので、なんだかファンタジーでも見ているよう。
クレバーなのにちょっと尻軽そうに見える匙加減のヤンキーガールの撮影は最高。


【銭】
ギンレイホール、会員証で入場。
『人間の値打ち』&『エル・クラン』で一番組。
『幸せなひとりぼっち』&『手紙は憶えている』で一番組。
『エヴリバディ・ウォンツ・サム!!』&『マダム・フローレンス』で一番組。
『マダム・フローレンス』は音痴歌をもう一回聞くのはまだ早すぎるとスルーした。

▼作品詳細などはこちらでいいかな
人間の値打ち@ぴあ映画生活
エル・クラン@ぴあ映画生活
幸せなひとりぼっち@ぴあ映画生活
手紙は憶えている@ぴあ映画生活
エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に@ぴあ映画生活
▼この記事から次の記事に初期TBとコメントを付けさせて貰ってます。お世話様です。
人間の値打ち@映画的・絵画的・音楽的
エル・クラン@ここなつ映画レビュー
手紙は憶えている@ここなつ映画レビュー

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8. 「エル・クラン」  [ ここなつ映画レビュー ]   2017年04月28日 13:22
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この記事へのコメント

1. Posted by クマネズミ   2017年04月27日 18:04
今晩は。
映画『人間の値打ち』は、「PS 『人間の千畝』」でトドメを刺され、“値打ち”なき作品として、最早立ち上がれなくなってしまったのではないでしょうか?
それにしても、「値打ち」→「ネウチ」→「チウネ」→「千畝」と、よくまあ“器用”に連想が働くものですね!とても、『幸せなひとりぼっち』に登場する「“不器用”爺さんのオーヴェ」に「ふじき78」さんが似ているとは思えません!
2. Posted by ふじき78   2017年04月27日 22:22
こんちは、クマネズミさん。
この後「人間の膣ね」という更にくだらない下ネタを思い付いたのは秘密です。
うんまあ、オーヴェ爺さんには親しみを感じますよ。誰しも万能ではいれないから上手く行かない事は絶対ある。それを全部、集めたようなキャラですから、どんな誰にも似ているのかもしれません。
3. Posted by ここなつ   2017年04月28日 13:26
こんにちは。いつもお世話になっております。
「エルクラン」の方に。これって当人にとっては至って「自分の特性を生かせる」仕事だったのでしょうね。なんかできの悪い大学生みたいな志望動機ですが。本当に恐ろしいのは、そんな特性が生かせるアルゼンチンの社会なのかもしれません。
4. Posted by ここなつ   2017年04月28日 13:29
こんにちは。「手紙は憶えている」の方へ。
全人生を破壊されてしまった人が持つ怨念の凄まじさを感じました。霊とかではなく、生きている人もかように執念深いものなのですね。
でもその執念深さもやむを得ないのかな…もうそれしか思いを巡らせることはないのですものね。
5. Posted by ここなつ   2017年04月28日 13:32
こんにちは。んでもってこちらの「エブリパティ・ウォンツ・サム!」の方にも。
ふじきさんはあまり評価が高くないようですが、私はこの何でもない取るに足らない作風にすごく惹かれました。あとからじわじわ効いてくるのですもの。
寮生活もそうだし、ただなんとなくつるんでそれだけで良し、の男子が羨ましかったりします。
6. Posted by ふじき78   2017年04月30日 11:31
こんちは、ここなつさん。
「エル・クラン」はマジに思えないマジな話が案外、そんなに昔じゃない最近、行われていたってのが、とんでも実話としてよかったですね。父ちゃんがパッと見、とってもどこにでもいそうなビジュアルなのに常時、目が笑ってない所がポイントでした。

「手紙は憶えている」は、でも被害者なら何をしてもいいんか?というのがどうも好きになれない。話としては出来上がってるのだけど。忘れてる人と利用する人の両方の葛藤が精緻に描かれていない(行動が当たり前だと思っている)のも不気味と言えば不気味ですが、描くと話が崩れちゃうだろうけど。

「エブリバディ・ウォンツ・サム!!」は独身最後の大騒ぎバッチェラ・パーティー物の緩い奴っぽかった。ダンスのプロム・ナイト同様、あまりにも日本と違うので、凄く他人事として見てしまった。
7. Posted by 太川 陽介   2017年05月04日 23:50
アラシ見参!

>あんなんどう考えても俺すぎる。

主人公の旧友(?)の方がふじきさんに近いと思う。
8. Posted by 太川 陽介   2017年05月04日 23:53
『幸せなひとりぼっち』ですが、
原作のとおりなのか、分からないけど、
伏線がものすごく巧い。
9. Posted by ふじき78   2017年05月05日 00:21
こんちは、先輩。
主人公の旧友って、あの車椅子の、、、まあ、あいつは主人公と属性的には変わらんよね。主人公じゃないから、更にスポットライトが当たらんというだけで。まー、それでもいいけんど(明確に違いがピンと来ない)。
10. Posted by maki   2017年05月06日 04:36
→「手紙は憶えている」
ふじきさんの例えはいつの的を得ていますなあ。
確かにその例だとわかりやすいし、麻原氏を殺すべきか否かという事では、やはり自覚を持った状態でなら殺すべき、となるでしょう。
子供のような状態の彼でも殺すべきになりそうなところも的を得ています(笑)

ただこの作品では、同じホームに入所してきた男の顔を覚えていて、入念に準備してきたマックスのその思いが(だってホームでは便宜上仲良くしてたんですもんね)執念の凄まじさを描いてて。
だからこそ最後の台詞が恐ろしいというか。
11. Posted by ふじき78   2017年05月06日 23:49
こんちは、makiさん。
もう一手進めて(裏の裏の裏みたいな奴)、マックスがゼブと思ってた人間が戦後のドサクサに紛れて戸籍売買した赤の他人だったりしたら、もう難しすぎて映画にできないかな。

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