2015年11月29日

ドキュメンタリー6本をあちこちで観てまとめてレビューする男ふじき

ドキュメンタリーのレビューがたまったのでまとめて。

『シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人』HTC有楽町2★★
『日本と原発 4年後』ユーロスペース1(手前)★★★★ ※これだけ邦画
『美術館を手玉にとった男』ユーロスペース2(奥)★★★
『みんなのための資本論』ユーロスペース1(手前)★★★★
『キャノンフィルムズ爆走風雲録』新宿シネマート1(大)★★★★
『ザ・トゥルー・コスト ファストファッション 真の代償』UPLINK ROOM★★★★

ドキュメンタリーを見るとよく思うのだが、
未知の知識を手際よく説明してくれる教育効果の高い物が好きだ。
嫌いなのは「情景」を撮りっぱなしの未編集もの。
そこには何かを伝えようという意思が感じられない。

上の6本の中で伝える努力がともかく強いのが
『日本と原発〜』『〜資本論』『〜コスト〜』の3本。とてもおもろい。
『キャノン〜』は素材が面白すぎて伝えるも伝えないもないという珍品。
後の2本はそれぞれ試みは面白いんだけど他の4本よりは私的には劣る。
ちょっと前に記事にした『サム・ペキンパー』も素材が良いのに伝わらなかった一本。一人の人間の「人と成り」を伝えるのに評伝(インタビュー)を延々続ける方式がもっとも適しているとは思えない。基本、伝記を書く人が作ったから、そういう形式になったのかもしれないけど。

◆『シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人』
五つ星評価で【★★キャラはいいけど、言いたい命題がぼけている】
90近い婆さんが二人、経済についての疑問を膨らませて、あちこちて解決しようと悪戦苦闘するドキュメンタリー。基本二人の行動を後追い(もしくは同じ行動の再撮影)して撮影する事で作品ができており、そこからもう一つ編集してまとめようという親切心は薄い。なので、当の主役たちは分かっているかもしれないが、観客の私には「経済が右肩上がりに成長する事が理想の生活に直結する訳ではない」という主張はお題目のように耳に入ってくるが、今一つ「だから、それが何でそうなのよ」という感じで自分の気持ちにまで攻め込んできてはくれなかった。
よく分からないが、チラシの紙に物凄くいい厚手の紙を使っている。いや、もっと他にお金掛けるところなくない?

◆『日本と原発 4年後』
五つ星評価で【★★★★洗脳される快楽】
あまり難しい事を考えずに生きている。
なので、原発の話もこの映画を見るまでは
「原発を稼働しない事で国家間の経済力競争に負け、飢えるような国になったらイヤだなあ。だから、原発は完全否定ではなく、自然エネルギーと共存しながらゆっくり廃棄の方向に歩んでほしい」という考えだった。この映画を見て変わった。うん、原発はいらない。なくて電力足りそうだし、リスク込みで計算したら喜んで使うほど安くない。
原発を使うべきでない理由がきっちり分からない人に分かるように作られている。悪い言い方をすれば、きっちり洗脳されるように作られている教材だ。
でも、為政者側が分からない人に分からないままでゴリ押ししようとする政策を施行するので、これくらいの反論が妥当なのだ。これが間違えているなら為政者側もこれくらい分かりやすく反論してくれるなら、私は再洗脳されよう。とても、そんな誠実さが為政者側にあるとは思えない。だから、私はこの映画を推す。

◆『美術館を手玉にとった男』
五つ星評価で【★★★出来事としては面白いし、考えさせられる】
贋作芸術を売買せず美術館に寄贈していた男の評伝映画。
彼は自らの利益を享受していないので詐欺罪には当たらない。
美術品に創作の魂がなく、同じだけの技術があるだけでも芸術たりえるか、という美術業界においてはタブーであろう命題も含まれている。
「ピカソが描いたら芸術だが子供が描いたら落書き」という議論である。
とどのつまり、これは芸術を与える側と受け取る側のどちらに基準を置くか、という事だろう。芸術を与える側は今まで権威に守られていた価値が贋作によって暴落するのは好まないだろうが、芸術を受け取る側は手っ取り早く、同じ感銘が受けられるなら真作だろうが贋作だろうが関係ないと思うのだ。「この絵は素晴らしい。その理由はこの絵の作者が作者本人であり、真作だからだ」と言うのは本当のところ、芸術の否定であろう。
最終的にこの男の贋作を一堂に集めて個展が開かれる事になる。実に皮肉な展開だ。

メチャクチャどうでもいい話をするが、男の贋作寄贈を最初に見破る男がFUJIWARAのふじもんに似てる。ふじもんに似てるってのはムチャクチャ芸術から遠くていいと思う。

◆『みんなのための資本論』
五つ星評価で【★★★★お金の仕組みがよく分かる】
アメリカの金持ちと貧乏人の格差問題を語る映画。
見ているうちに分かる。これは原理原則を語る映画なので、全てが同じでないにしても、かなり似通った事が日本でも起こっている。
金持ちと貧乏人の格差が起こるのは悪い事なのか?
格差その物は悪くない。ただ、働いても、働いても、貧乏人が貧乏から抜け出せない社会システムが出来てしまっている事が問題だ。それは黒人奴隷がどんなに努力して働いても奴隷から抜け出せなかった事と一緒だ。要約すると貧乏人が得をしないように巧みに色んな方法でピンハネしてる奴らがいるのだ。そして、そのピンハネがシステムとして盤石すぎてなかなか崩せない域に達してしまっている。
このピンハネの手法がアメリカに揉み手で擦り寄っていく日本に根付かない訳がない。何か悪い意味で、日本がアメリカに近づいていってると思う。勿論、ワールドワイドに無慈悲じゃない分(資本主義的な繁栄の為なら他国国民の血を流す事に躊躇しないのがアメリカ支配階級の考えだ)、日本の方がまだ猿真似程度だとも思うが。どちらにしてもピンハネされるのは中流から下だから嬉しい訳がない。

◆『キャノンフィルムズ爆走風雲録』
五つ星評価で【★★★★ドキュメンタリーとして面白いとかつまらないとか、この映画に関してはもうどうでもいい】
メナへム・ゴーラン率いるキャノン・フィルムの成功と没落を描く。
ハリウッドの一番にのし上がって退いたイスラエル人メナヘムの成功の秘訣は、安い映画でガッポガッポいっぱい作ってうっひょっひょー、って感じの気持ち商法。何か八百屋の親父がプロデューサーになったような感じ。でかい声で「いらはい、いらはい、おもろい映画あんねんでー」とがなってる。「気に入らんなら、こっちのもええで」と10本くらい映画作る。頭は悪いが、ひたすら情熱的で、そんな八百屋みたいなプロデューサーを嫌いになれる訳がない。
なので、作ってた映画の内容がどうこうでなく、そこに関わっていたメナへム・ゴーランという男が魅力的。その彼の伝記映画なので、彼がずっと映りっぱなし。いやあ、面白い。最高の素材だ。そんな訳で、中に出てくる映画の知識がなくてもけっこう楽しめる。これって凄い事だ。

◆『ザ・トゥルー・コスト ファストファッション 真の代償』
五つ星評価で【★★★★搾取の真相がよく分かる】
アメリカの金持ちと途上国の貧乏の格差問題を語る映画。
「ファストファッション」・・・安売り衣料。日本で言うならユニクロ。
アメリカの話で言えばこの20年の間、人々は40倍もの服を買う事になったらしい。
だが、服の値段は売れれば売れるほど下がっていく。
これは売れた分の儲けで安くしている訳ではない。
過当競争で売値を安くするため原価を安く抑える事を強いられているのだ。
労働者の人権が確保されていない国で底値で買い叩かれて作られた服。
そう、この映画の中心テーマはフェア・トレード。
グローバリズムがフェア・トレードを難しくしてる。
企業が最貧国に行って労働力を買い叩く。
労働組合とかが出来、労働力が高騰するとその国を見限り、別の最貧国で買い叩く。
貧しい国が国をあげて武力で労働ストを排除したりする。
ともかく、ことここに至っては「経済は武力以上に武器」なのだ。

映画はフェア・トレードを中心に、衣料原料を安価にするための農薬汚染問題、
大量の廃棄布による環境汚染にも触れる。

これらのファストファッションに金を払ってしまったら、このシステム維持に対して賛成票を投じる事になる。ああ、怖い。この怖さこそ、このドキュメンタリーが秀逸である事の証明に他ならない。

PS そう言えば昔、フェア・トレードを扱ったコーヒーの映画をUPLINKで
 見た記憶がある。その後、あの「すき家」でフェア・トレードコーヒーを店頭で
 売ってるのを見かけた。企業として良い事をやるのは賛成だが、
 「国外の労働者を助けるより自分の店の労働者をどうにかしてやれよ」と
 今ならツッコミも入りそうだ。今でもあのコーヒーは売ってるのだろうか?


【銭】
『シャーリー&ヒンダ』:テアトル会員割引1300円。
『日本と原発 4年後』:ユーロスペース会員割引1200円。
『美術館を手玉にとった男』:ユーロスペース会員割引1200円。
『みんなのための資本論』:ユーロスペース会員割引1200円。
『キャノンフィルムズ爆走風雲録』シネマート月曜メンズデー1100円。
『ザ・トゥルー・コスト』:UPLINKフラッシュ割(当日記念日に即した割引)1000円。

▼作品詳細などはこちらでいいかな
シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人@ぴあ映画生活
日本と原発 4年後@ぴあ映画生活
美術館を手玉にとった男@ぴあ映画生活
みんなのための資本論@ぴあ映画生活
キャノンフィルムズ爆走風雲録@ぴあ映画生活
ザ・トゥルー・コスト 〜ファストファッション 真の代償〜@ぴあ映画生活
▼関連記事。
サム・ペキンパー@死屍累々映画日記

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1. みんなのための資本論  [ 象のロケット ]   2015年12月03日 09:39
クリントン政権下で労働長官を務めるなど、3代の大統領行政府に仕えてきた経済学者ロバート・ライシュは、現在はカリフォルニア大学バークレー校の公共政策大学院教授。 先進国の格差社会の到来を早くから予言し警鐘を鳴らしてきた彼が、経済格差の問題点と対応策について解

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