『日本のいちばん長い日(岡本版)』『ゆきゆきて神軍』をキネカ大森1で観て、キチガイ盛沢山だふじき★★★★,★★『死霊高校』を新宿ピカデリー4で観て、今時・・・ふじき★

2015年08月23日

『日本のいちばん長い日(原田版)』をUCT4で観て、努力は認めるがやはり岡本版が好きふじき★★★

五つ星評価で【★★★おでは岡本派】

まず、これはこれで大した映画であると思う。
ただ、岡本喜八版の『日本のいちばん長い日』を見てしまうと
そのゆるぎないストーリーテリングに心酔させられてしまう。
原田眞人版が同じ題材で違う物を描こうとした事は分かるが、
前提となる話が分かっていないと、物語として今一つのめり込めない。

原田眞人版は前半ポツダム宣言受諾決定の辺りまでが秀逸だ。
そのパートが前作より長く、前作で知りえなかった事なども色々描写される。
怖い。東條怖い。
でも、そこが長いので「いちばん長い一日」というより
「長かった数日間」みたいにピントがずれてしまっている。
だったらタイトルを『聖断』にして、
『日本のいちばん長い日』はサブタイトルに変更しても良かったのではないか。

残念なのは描きたかった「聖断」にウェイトを置いてしまった為、
「いちばん長い一日」に当たる部分の描写が駆け足になってしまったことだ。
そして、その部分が短くなると、どうしても青年将校達の憤りが伝わりづらい。
自分も含めて、本土決戦しなくていいならラッキーと思うような観客に、
その当時は「日本が負ける事は正義の為に許されない」
というメンタリティーに満ちていたという事を説明してやる必要があると思う。
「この映画を観に来る観客なら分かっているだろう」と決めつけるのは簡単だが、
本来はそれが分からないような観客にこそ見せたい映画でもある筈だ。

松坂桃李演じるドライに狂っていく畑中少佐は
前作で黒沢年男が演じたウェットに狂いまくる畑中少佐と明らかに違う演技で、
それはとても良い試みだったと思う。
松坂桃李の冷徹な顔に、日本軍人の一本気な一念が見てとれて見惚れた。
ただ、問題なのは彼等青年将校が松坂桃李と同じ狂い方にすぐ同調してしまうので、
各個人のメリハリや個性が見えなくなってしまった。
そこだけ現代と同様に意図的に没個性に抑えたという事もないだろう。
前作では青年将校の中でさえも各個性がぶつかり結論や偶然が重なって
反乱になだれ込むという道筋があったのに、
今作ではレールに乗るようにスムーズに反乱になってしまう。
彼等青年将校は日本軍人の戦う事や人を殺す事ですら一生懸命行う勤勉さが
凝縮されたような、外国人から見たら、とっても「日本兵」な存在に見える。
まるで、マシーンのような。
そう言えば総理大臣、陸軍大臣も、
とっても立派な偉業を成し遂げた人物として描かれている。
それはそうなのであるが、どうもスキがなさすぎて人間くさくない。
伝記を聞かされているような感覚である。

岡本版では総理大臣は貧相な小男であり、
陸軍大臣はコテコテの軍国主義者のように描かれている。
それでも彼等は一致団結して、戦争を止めなければならなかった。
そして、戦争を止めたくなかった者達もみんな、とても人間くさかった。

原田版の青年将校達はイデオロギーそのものである。
岡本版の青年将校達はイデオロギーに翻弄される人間である。
原田版は極めて概念的であり、だからこそ描けた部分もある。
岡本版は逆に大衆が喜ぶ絵巻物のようだ。
これも、その様式だからこそ描けたものがある。
私は岡本版の取り組み方の方が好きだ。


【銭】
UCT金曜会員割引で1000円。

▼作品詳細などはこちらでいいかな
日本のいちばん長い日@ぴあ映画生活
▼この記事から次の記事に初期TBとコメントを付けさせて貰ってます。お世話様です。
日本のいちばん長い日@映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
日本のいちばん長い日@映画的・絵画的・音楽的
日本のいちばん長い日@映画のブログ
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この記事へのコメント

1. Posted by クマネズミ   2015年08月24日 06:42
お早うございます。
本作は、ポツダム宣言が発せられてからそれを受諾するまでの4ヶ月に渡る政治的プロセスをメインに描こうとしていて、8月14日から15日にかけての“長い一日”の人間模様を歴史絵巻的に描き出している岡本版とは視点がまるで違うように思います。そのため、本作では、おっしゃるように、「「いちばん長い一日」に当たる部分の描写が駆け足になってしま」い、青年将校はもとより、特に岡本版で印象的な天本英世とか伊藤雄之助、田崎潤とかが活躍できなくなってしまいました。そして、その代わりに、原田監督の言う「「鈴木貫太郎首相を父、阿南さんを長男、昭和天皇を次男とする疑似家族の話」は描けているのかもしれませんが、だからといって「描きたかった「聖断」」に説得力が増したようにも思えないところです(例えば、木戸内大臣の関与も大きかったのではないでしょか)。というところから、僭越ながらクマネズミも、「岡本版の取り組み方の方が好きだ」との「ふじき78」さんの見解に同調いたします。
2. Posted by ふじき78   2015年08月25日 00:22
こんちは、クマネズミさん。
歌で答えます。

♪聖断、それは君が見た光。僕が見た希望。
 聖断、それはふれあいの心、幸せの青い雲

しまった。何も答えていない。
3. Posted by クマネズミ   2015年08月25日 05:28
岡本版の『日本のいちばん長い日』とセイダンを結びつけるとしたら、次のURLの話も捨てがたいものがあります!
http://dooo-astem.jugem.jp/?eid=1406

4. Posted by タケヤ   2015年08月25日 22:08
皆さん、岡本版がいいって言いますね。
僕は観たことがないのでなんとも言えませんが
(そう言われる方が多いので)そうなのかなあ・・・
って思ってしまうのかもしれない。

でも単純に考えたら"面白いか?""面白くないか?"
だけなんですけどね。
5. Posted by    2015年08月25日 22:40
岡本版、まだ観ていませんが、軍部のいじり易さに対して、天皇はやはり不可侵と観ました。デフォルメして良いか、厳しい評価が下るのが、歴史映画の醍醐味でめあって、歴史修正へ学界が苦心惨憺しているのに対して、映画は、その権威たる地位を保ったまま、作品化できるのは、メディアの強みでもあると思いました。だから、映画には批評によって評価を覆される事もあるというもので、批評のスタンスを守った上で、面白い意見を提唱する事は何より難しい事なのでしょう。本木の演技も良いですが、天皇が下手に賢者然しておらず、昭和天皇は偉大な凡人、というスタンスで描かれ、良かったと思いました。
6. Posted by ふじき78   2015年08月25日 23:34
再度こんちは、クマネズミさん。

わははははははははは(以下略)。
7. Posted by ふじき78   2015年08月25日 23:41
こんちは、タケヤさん。
世の中にはいろんなジャンルの映画があって、今回は旧作・新作でジャンルが分かれてしまっていると思っています。ジャンルの違う映画を比べるのは難しいし、徒労かもしれないとも思うのですが、一点、次の視点で比べると、やっぱり岡本の方に軍配を上げてしまう。

・監督が伝えたかったことがちゃんと観客に伝わっているか?

原田版は焦点がぼけてしまってちょっとその辺りが曖昧。
8. Posted by ふじき78   2015年08月26日 00:24
こんちは、隆さん。
原田版は天皇を描く事を作品の主目的としていますが、岡本版は軍以外の大臣と同じで、機能としてそこにあればいいという描き方だったと思います。
後世になれはなるほど岡本版の天皇の描き方は不足であるよう感じるという意見が立ってしまいそうで。
9. Posted by ナドレック   2015年08月29日 21:02
もちろん岡本版もいいのですが、私好みなのは原田版かな。題材が同じというだけで違う内容なので、比較するものではないのでしょうけど。

近年の原田監督作品を観ていると、私と原田監督は映画の好みが似ているような気がします。『おニャン子・ザ・ムービー 危機イッパツ!』の頃は思わなかったのですが。

>それでも彼等は一致団結して、戦争を止めなければならなかった。

原田版の阿南陸相は戦争を止めようとしていましたが、岡本版の阿南が止めようとしていたのはクーデターであって、戦争を止めようとはしていないような気がしました。クーデターにはやる青年将校を抑えるためにも戦争は継続してくれ、と思っていたような。
阿南陸相についてはいろいろな解釈があるようで、作品ごとの違った描き方が面白いですね。
10. Posted by ふじき78   2015年08月29日 23:54
こんちは、ナドレックさん。
岡本版の阿南はやはり三船敏郎ですから「寄らば斬る」みたいで戦争どんどんやりたそうなイメージはありますね。でも、「負けてはいない」と言っても、決して「勝ってる」でもなかったし、国体の護持がなされなかった時の本土決戦も、それが起死回生と言うより、他に方法がないから渋々やるように見えました。その点、どちらの映画でも優先事項に従って一つ一つドライに処理してたように思えます。

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